夫婦で環境教育を専門とする活動を続けて30年。私自身は社会人で大学院に入り、食育や食農、共食について研究するなか起業し、2014年に食堂を開業しました。学生時代の学び、自然体験活動でのボランティアリーダーやキャンプ場でのキッチンスタッフの経験などから食への関心を深め、結婚後は家庭生活のなかで食や暮らしを見つめてきました。

栄養価を計算してつくる食事よりも、主婦であり母であることを原動力に、地域の食材と信頼できる調味料を使いながら、家族や大切な人たちと、ともに食事を囲む「食卓文化」を尊重することが原点にあります。

カウンター越しにつくり手が見える

季節とつくり手が見える、地域みんなの食卓

起業して最初に取り組んだのは、伝統的な京町家を活かした多目的交流スペースの運営と、食のコミュニティづくりでした。ワークショップやセミナー、食に関するさまざまな教室の実施、お味噌や季節の果実を使った保存食づくり、ほんものの調味料や食材、有機野菜の販売を行うなど、年間1,000人を超える方々に利用していただきましたが、もっと食や環境の大切さに関心がない人にも届けていきたいと考えて、日常の食事から気づけるおばんざいを提供する食堂を始めることに。

普段家庭では食べられないような珍しい料理や高級なレストランが多い京都。あえて安心にこだわった普段の家庭料理をお出しするのは、季節とつくり手が見える日常の食事を通して身の回りの環境や自分の生活、ひいては社会を見直すきっかけにしてほしいという想いから。私たちのレシピも公開することで、おうちごはんを応援しています。

食堂では京都で採れた旬の有機野菜を中心に、ご飯は昔ながらのかまど「おくどさん」で炊きます。定期的にお店横のスペースで開催しているマルシェでは、農家さん自身が直接、つくり手としての想いとともにお野菜を販売し、関わるすべての人の幸せにつながっています。身体にも心にもよい食材や調味料を使うことは私たちの基本なので、取り立てて宣伝することはありませんが、美味しいと感じていただきながら自然に、身体が喜ぶ食卓文化をお伝えしています。

コンビニやデリバリーサービスが身近にあり、いつでも簡単にお腹を満たすことができる時代。忙しい現代人には、便利さと引き換えに失いつつある季節感やつくり手の顔が見える安心感とともに、自分の身体が欲しているほんものにたどりついてほしいと願っています。今では「なぜか体調がよくないときに来たくなる」とおっしゃってくださるお客さんも多く、食が健康や暮らし、生き方にまで影響していることをますます実感しています。

大地、自然からの恵み、その土地ごとの食材、農家さんや私たちの食卓に届けられるまでに関わっている多くの人の手、労働そして地域や家族に対する想い。食事を通していただいているものすべてがいのちです。いのちの営みをまるごとおさらにのせて、今日もこれからも、地域みんなの食卓であり続けたいです。